004メンソール
 
 
 
 
「あ、吸ってよかった?」
「え?あ、ああ。かまいませんよ」
「んじゃ遠慮なく…」
「…っ」
「あはは、いやならいやって素直に言わないからさー」
「そ、そうじゃなくて。なにも顔に吹きかけることはないでしょう」
「そういう嫌がらせしたくなるくらいの顔はしてたよ」
「そんなことないですっ」
「うそだね、してたね」
「ちょっと、なにさわってんですか」
「おでこくらいでそんなに引かなくてもいいじゃない…ほらここにね、いやだよやめろよっ
てね」
「かいてあるわけないでしょう」
「いや、刻んであった」
「どっちもあーりーまーせーん」
「ところでさ、この煙草はね、すうっとする味がね」
「また僕が知らないと思って」
「なにいってんの。ほら、ここにメンソールって」
「…あ、本当だ」
「そうだよね、いつも君は僕の言うことなんか真面目に聞いちゃいないんだよね」
「でもそれはいつもの言動知ってる僕には仕方ないんじゃないですか?」
「…」
「……」
「……はあ」
「すみません言い過ぎま」
「なーんちゃって」
「…もう二度と信じません」
「あはははは」
「……煙草くさいんで消してください」
「ほら、最初からそう言えば僕にいじめられることもなかったんだよ」
「普通こんなこと大の大人はしませんよ」
「でも、僕が普通の大の大人だったら、君は今ここにいないでしょう」
「……」
「君は普通じゃない俺の、あるんだかどうかわからない才能とやらのためにここにいるんで
しょう」
「…あなたの才能はちゃんとあるじゃないですか」
「いやあ…こんな風に、ほら、ちゃんとタール何ミリグラムだとかメンソールだとかね、成
分表示があるならいいけれど。俺の体にはどこ見たってそんなものはないからね」
「…煙草で酔ってるんですか?」
「まっさか。いくら普通じゃない俺にだって、煙草で酔うような真似はできないよ。酔うの
は酒、って昔っから決まって…」
「あーっ!!やっぱり、飲んでるんですね?!」
「飲んでなんかないよ、素面だよ」
「…本当ですか?」
「本当本当。第一僕が下戸だって君知ってるでしょう?」
「どうだか。たった今あなたなんて信じるものかと思ったところですし」
「……これは本当だよ」
「では、信じましょうか」
「ええ、信じてください」
 
 
 ただ。
 ほんのすこしね。
 弱音なんてものを吐いてみたくなっただけだよ。
 
 
 
(20030321)
 
 
 
 
 
 
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