<米買ってくる>
明らかにどうでもいいようなチラシをちぎったその端っこに、読みにくい字でそれだけ書いてあって、寝起きの流川はまずこれがなんなのかを理解することに数秒を要し、更にその文字を判読して意味を知るのには、数十秒かかった。
そして、今が一体いつかをわかるまでには、たっぷり五分はかかっていたと思う。朝か夕方かわかりづらいような外の天気、そして洗ったようになにもない自分の頭の中身。いろんなことが今の流川には難しい。指先にわずかばかりの抵抗を感じさせるその紙を持ったまま、流川は馬鹿そのもので真剣に今がいつなのかを考えていた。そうして悩んだおかげで、徐々に、今が夕方で、自分は昼飯をこの桜木の部屋で食ったあと寝て、そして今起きたのだ、ということがわかる。これだけのことがわかるまで、実に長かった。
<米買ってくる>
少しスッキリしたところで流川は再び手の中にある小さな紙片に目を落として、その汚い字と、たった六文字の言葉を見た。
どうして桜木がこんなものを自分に残していったのか、流川にはまるでわからない。だけど、桜木がここにいない理由はわかったので、この小さな置手紙も役には立っているといえるだろう。
「……」
桜木と置手紙というのは、とても不思議な取り合わせだと思って、思いながら流川は無意識のうちに側に転がっていたペンと、そして桜木がその置手紙をちぎったあとがあるチラシを引き寄せ、自分もまたそれを小さく手で切ってなにごとかを書きつけるとまたさっきのようにごろりと畳の上に寝転がり数分で寝息をたてはじめた。
桜木はその十分後にでかい米袋を二袋も担いで帰ってきて、その流川からの手紙を読むのだけれど、それを読んだ桜木がどんな顔をしてなにを言ったのかは、流川も知らない。
*************************************
「Letters」を最近エンドレスリピートで聞いています。
誰のでしょう(笑)
|