つぶやくみたいに



 


 
2002年11月28日(木) レターズ


<米買ってくる>

明らかにどうでもいいようなチラシをちぎったその端っこに、読みにくい字でそれだけ書いてあって、寝起きの流川はまずこれがなんなのかを理解することに数秒を要し、更にその文字を判読して意味を知るのには、数十秒かかった。
そして、今が一体いつかをわかるまでには、たっぷり五分はかかっていたと思う。朝か夕方かわかりづらいような外の天気、そして洗ったようになにもない自分の頭の中身。いろんなことが今の流川には難しい。指先にわずかばかりの抵抗を感じさせるその紙を持ったまま、流川は馬鹿そのもので真剣に今がいつなのかを考えていた。そうして悩んだおかげで、徐々に、今が夕方で、自分は昼飯をこの桜木の部屋で食ったあと寝て、そして今起きたのだ、ということがわかる。これだけのことがわかるまで、実に長かった。

<米買ってくる>

少しスッキリしたところで流川は再び手の中にある小さな紙片に目を落として、その汚い字と、たった六文字の言葉を見た。
どうして桜木がこんなものを自分に残していったのか、流川にはまるでわからない。だけど、桜木がここにいない理由はわかったので、この小さな置手紙も役には立っているといえるだろう。
「……」
桜木と置手紙というのは、とても不思議な取り合わせだと思って、思いながら流川は無意識のうちに側に転がっていたペンと、そして桜木がその置手紙をちぎったあとがあるチラシを引き寄せ、自分もまたそれを小さく手で切ってなにごとかを書きつけるとまたさっきのようにごろりと畳の上に寝転がり数分で寝息をたてはじめた。



桜木はその十分後にでかい米袋を二袋も担いで帰ってきて、その流川からの手紙を読むのだけれど、それを読んだ桜木がどんな顔をしてなにを言ったのかは、流川も知らない。



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「Letters」を最近エンドレスリピートで聞いています。
誰のでしょう(笑)


 


 


 


 
2002年11月10日(日) オールドファッションド


手のひらの半分ほどしかない小さな小さなラジオを入れるために、わざわざ胸ポケットのある上着を着て、流川は外に飛び出した。
スイッチを入れたラジオから流れる音楽、そして言葉、言葉。
電波に乗るその言葉は、まるで音楽のように滑らかで、自然、流川は歌を口ずさむ。何度も何度も聴いた古い歌。近頃自分の体を満たしているのは、このゆるやかなメロディ。
優しいのに甘すぎない、そんな歌を歌いながら、流川は歩く。



この歌を共にしたい人のもとへ。



ラジオからはポップス。くちびるからはオールディズ。

混ざらない音を発しながら、流川は少しだけ、その歩を早めた。



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企画で精一杯で、予定していた話が書きあがらなかったので急遽。
流花の日ですね(ちょっと遅れましたが)。
最近のマイブームはラジオです。
 


 

 


 
2002年09月21日(土) オンリー・ミー


その小さな小さな、だけどやわらかに鋭い爪を伸ばして、真っ白い小さな小さな生き物が、流川の胸へとすがりついた。
やわらかな表情の流川はその生まれて間もない仔猫を見下ろし、ふ、と軽く息を吹きかけたり人差し指で喉や背中をなでたりと、可愛くて仕方ないらしい。
鳴き声さえまだろくに出せないほどに頼りないそれは、爪を立てて流川の胸を這い上がる。流川はまるでその羽ほどの体に押されたかのように背中から床に倒れ、両手にその猫をすくってじっと真正面からその顔を見た。姉が猫の首に結んだ赤いリボンがわずかにゆれる。
花道はそれを傍らでじっと見ていた。
この仔猫が来てからというもの、流川は全くこいつに夢中で、そばにいる花道のことなどどうでもいいみたいにずっとこうして仔猫と遊んでいる。
流川がこんなに猫が好きだなんて、花道は知らなかった。
甘ったるい、やさしい顔をして、飽きることなく猫をかまって。
そんなことばっかりしてて、だから花道の家にも寄りつきゃしない。以前は三日と空けず自分の家に来てべったりくっついてきていたというのに。
「なー、ルカワー」
あんまりにもイライラするので、花道は流川の名を呼び、その服の裾を引っぱる。
痺れを切らして、珍しく花道が流川の元に出向いたはいいが、しかしずっとこの調子で、短気な花道はほっとかれてるのに我慢できない。しつこく流川の体を揺さぶって、そうしたらやっと返事があった。
「今日はバスケしねー」
「なんでだよ」
「こいつと遊ぶ」
「・・・いちんちじゅうか?」
「ああ」
「つまんねーよ!」
「俺はたのしー」
 け、猫バカめ、と口の中で罵って、むすりとした花道は流川のように床に寝そべった。
せっかくの日曜日で部活もなくて日本晴れで。なのになのに。
まだ遊ぶ気かよこのやろう、と花道はいらいらと首を流川の側に向け、しかしその瞬間、今見た光景に猛烈に腹が立って叫んでいた。
「ダメだー!!」
その声にびっくりした流川が、あわてて仔猫を自分から離す。流川が唇を寄せていた仔猫の頭のあたりの毛がくしゃくしゃとなっていて、それにも花道は我慢がならない。
「・・・どあほう、なんだ」
「ダメだったらダメなんだよ!!」
「・・・猫だぞ?」
「猫でもなんでもダメだったらダメだっ!!」
「・・・・・・」
少し困ったような顔で、流川は今日はじめてちゃんと花道を見た。
仔猫を床に下ろして、体を起し花道の顔を覗き込む。
「妬いてんの?」
「うるせー。ダメなんだよ」
もはや居直りとも取れるようなかたくなさで、花道は流川をにらみつけ、ぷんぷんと怒りながら流川の首に腕を回し、ぐっと引き寄せる。猫なんかよりずっといいだろ、という気持ちでキスをしながら、空いた手で流川に駆け寄ろうとする仔猫を、しっしと追い払う。
その仕打ちに、白い仔猫はうらみがましく、にゃー、と細い鳴き声を上げた。






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けものが恋しい季節になってきましたね。
私もかなりの猫バカです。残念ながら飼ってはいませんが。


 


 


 


 
2002年08月24日(土) ゆめうつつ

一昨日の夢。

ルカワはオレの本気の告白に、さっと、でも深い嫌悪の表情を浮かべ、聞き取ることを拒みたくなるほど酷い罵声を浴びせ掛け、そして背を向けると、二度と振り返ることなくオレのそばから離れていってしまった。オレはただ、色を失い、胸の痛さに震えていた。



昨日の夢。

オレは毎日、授業が終わると、時には授業が終わらないのに、学校を後にして、洋平たちや、中学ん時のダチや先輩らとつるんでいた。パチンコ行って、負けたり勝ったりして、時々飲み会に混ぜてもらったりうちで人を呼んで飲んだり、一人でゲームしたりマンガ読んだり、そんなことをしていて、そのどこにも、オレの中のどこにも、ルカワの存在はなかった。



今朝の夢。

ルカワがわけのわからない言葉をしゃべる。わけのわからないものを大事にして、わけのわからないことをしようとする。オレが言うことも、していることも、全くわからないという顔をして、だけどオレも、ルカワが言うことや、していることが、全くわからないという顔をしている。分からないだらけで、なにをどうするのか以前に、なにをどうしたいのか、どうしなければならないのか、そもそもどうにかしなければならないのかさえわからない。なにも分からない。ルカワと自分が全然違うこと以外、なにも。




「どあほう」


夢から醒めたオレの目に映るいつもの不必要なまでにキレイな顔。
やわらかい表情を、少しだけその顔に乗せて、きっとうなされていたんだろうオレを見つめ、そばに転がっていたタオルでオレのひたいの汗を拭く。気づけば、布団を着ているのさえ苦しいほどで、オレはまだどこか力の入らない手で布団を押しのける。ルカワがなにか言っている。心配してる。ちゃんと分かる。震えが消える。
やわらかな感触。オレを拒まない、どころか求める手。オレを見つめる瞳、感情をストレートに、少しそっけなく伝える言葉。


だから、大丈夫。



たとえこれこそが夢だとしても。



 


 


 


 
2002年06月17日(月) 揺れる快楽


ルカワの指がオレの中で丸く円を描いたり、縮められたり、絶対さわるなといつもいっているところをわざとしつこくさわったりして、オレはというと、腰を引いているんだか、押し付けているんだか、自分でもどっちなんだかわからない風に身をよじり、背中にのしかかってるルカワに悪態をつく。
するとルカワは、憎たらしいほどゆっくり、そして中の快感を根こそぎ叩き起すようにして指をギリギリまで引き、オレが力を抜いたその瞬間、わずかに引っかかっていた指でそこを押し開き、なんにも言わずにさっきから太ももあたりにガンガン当たってたそれをぐっと押し込んできたので、オレはもうびっくりして何かを叫んだ。
ルカワも何か言ったようだったけれど、多分それはうるせー、だとかそういう類の言葉だろう。
オレがびっくりしたせいでルカワのそれは、いつも引っかかるところから、今日は全然進めないでいる。ザマアミロと思うけれど、実は自分も苦しいので何とかしろ、と叫ぶように言ったつもりだったけれど、これはほとんど声にならなくて、揚句ルカワからもてめーこそ力抜けどあほう、なんて言葉が降ってきて、とにかくお互いがなんとかしなきゃならないんだとお互いが悟る。
その間がおかしくて、オレはなんだか笑ってしまった。苦しいんで声こそでなかったけれど、顔が変な風になって、変な呼吸になったから、ルカワにもバレた。
「笑いてーのはわかるけど、さっさとなんとかしようぜ」
その上本当に辛そうな声でそんなことを言うもんだから、もうどうにもならなくて、体が震えるほど笑えて仕方なかった。
きっとすげえ渋い面してるんだろうな、とか思ってたら、いつの間にかオレの体から余分な力が抜けてたみてーで、ほんの少しキツイ思いをしたあと、ルカワはオレの体にちゃんと入った。なんでかすごいほっとした。
オレの腰を抱えていたルカワの腕に、ぎゅっと力がこもる。笑いはもう引っ込んで、あとはただ、笑う余裕もないほど気持ちのいいことだけがそこにあった。


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相変わらずHPが見られないのでしばらくここで気が向いたら更新しますが、短いですね…
でもなんでエロなのか。しかもハンパな。
ええと、お子様はご遠慮ください(遅い)
 

 


 


 
2002年06月06日(木) 胡瓜


暑くてたまんねーと言いながら二人で桜木のアパートに駆け込んで、どっちが先にシャワーを浴びるかでちょっとケンカになった。
口でギャーギャー言いながらもどあほうはさっさとシャツを脱いで、下に着ていたTシャツも脱いで、ベルトも外して。そうしてジッパーも下ろそうとしたところで、ふと、台所へと消えてすぐ戻ってきた。
「これでも食って待ってろ」
渡されたのは、一本のきゅうり。
「塩でもマヨネーズでも使っていいからよ」
手の中の、青いほどに緑な野菜をまじまじと見てしまう。冷蔵庫に入っていたのか、ひんやりと重たい。
動揺した隙を突かれて、桜木はさっさと風呂に行ってしまい、俺にはきゅうりが一本だけ。
仕方なしに、台所まで行ってちょっと洗い、端を切り落として塩入れに直接つっこんで塩をつける。
かじると、青臭いような、そんな匂いがして、不思議にうまかった。
冷たさのせいか、塩のせいか。ぱきぱきと音が立つのも、気持ちいい。
流しの前に立ったまま、あっという間に一本食べてしまう。
「涼しくなったか?」
いつの間に上がっていたのか、どあほうが後ろに立ってニヤニヤ笑っていた。
下をはいただけで、ずぶぬれの髪のままで、俺の顔をのぞきこんでいる。
「・・・そういえば」
いつの間にか、流れ続けていた汗は止まっていた。
「夏は瓜系がいいんだ。体の熱をとるから」
得意そうにそんなことをいって、もうすっかり汗の引いた俺の背中を、ぽん、と押した。
「シャワー浴びてこいよ」



・・・なんだか、まじないでもされたみてえ。





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そんなわけで今私は小玉西瓜を半分に切ってスプーンでほじって食べてます。
甘くておいしい。
ちなみにきゅうりはもう夕食で食べてます。
夏は瓜系で露命をつなぐのです・・・暑い。
 


 


 
2002年05月20日(月) 証明写真


どあほうがかばんの中から学生手帳を出したとき、ぱらりと小さな紙片が落ちた。
どあほうは気づかないまま、手帳を開いて、学生番号を紙に控えるとまた鞄の中に突っ込んで、これ職員室に持って行ってくる、と教室を出て行った。
俺は床に落ちたその小さなものをはがすように拾いあげる。
妙にまじめな顔したどあほうの、白黒の写真。
しばらく、いや、かなり長い間見ていたのかもしれない。
どあほうが教室に戻ってくる足音がしたので、俺はとっさにその写真を学ランの胸ポケットに入れてしまった。
その写真は、まだ俺の胸にある。
 


 

2002年04月30日 火曜日


あいつ一体なに考えてんだ?

オレにはもう、なにもわかんねー。
あいつの顔も、見らんねー。
 


 


 


 
2002年04月22日(月) 日曜日

明日から居残りしていいってオヤジに言われた。
今までさんざん練習させろって文句言ってんの全然きかねえでいたくせに、こっちがあきらめたころに言うんだから、オヤジも性格わりーなー。
まあいい。天才が本気を出せばこれまでの練習不足など3日で取り返せる。

ミッチーにこれからしばらく居残り練習つき合ってくれって頼んだら、大分なんだかんだ言ってたけど結局オッケーしてくれた。
明日ラーメンおごらされるけどな。けちミッチーめ。
でもすげー安心した。よかった。

って、なんでそんなほっとしてんだろうな、オレ。おかしいんじゃねえの。
 


 

 


 
2002年04月13日(土) 金曜日

そういえばなんか手が少しやわらかくなった気がする。
指とか、入院前はもうちょっと硬かった。
たった二三ヶ月ボールに触んなかっただけなのにな。
ケンカもしねーから、手の甲も傷がねー。
もう何ヶ月も、だれも殴ってねー。


 

 


 
2002年04月08日(月) 水曜日 

なにもなかった。絶対に、なにもなかった。


 

 


 
2002年04月03日(水) 土曜日

病院に行った。
行っちまえばおばちゃん先生にも会えるし看護婦さんたちにも会えて楽しいと思うんだけど、行くまではすげーいやだ。
おんなじ部屋だったやつらで、残ってるのは金田のガキだけだ。
複雑骨折ってのはなかなかなおんねーもんなんだな。

帰りに久しぶりにパチンコに行ってみた。
勝ちもしなかったけど負けもしなかった。つまんなかった。
今度あいつらと行ってみようと思う。


 

 


 
2002年03月31日(日) 月曜日

ディフェンスのときにカクにぶつかって、なんかしんねーけど右の中指を突き指した。こけたときに床にぶつけたらしい。
たいしたことはねーんだけど、アヤコさんがテーピングでがちがちにした。
いいって言うまではがすなっていわれたんで、はずせねー。
それに、これしてると全然痛くねー。すげえと思う。
テープ巻いてるだけなのにな。
でも鉛筆は持ちにくい。

背中にもテーピングできたらよかったのに、とちっと思った。
今日は部活半分参加した。
 


 

 


 
2002年03月30日(土) 木曜日

冷蔵庫が最悪なことになっててもう最悪だ。
入院の前に家に戻れたらよかったけど、広島から病院に直行させられたせいで何にもできねーまんまだったからな。ま、家に戻っていいって言われても、無理だったかもしんね―けど。
できることならこの冷蔵庫のコンセント引っこ抜いて粗大ゴミに捨てちまいてーくらいだったけど、そういうわけにもいかねーし。
せっかく家に戻れて、最初にするのが臭い冷蔵庫の掃除ってなんだよ全く。
おかげで今すげー気持ち悪い。メシなんか食えねー。なんか、自分が臭い。
大分風呂で体洗ったのによ。冷蔵庫の前には蚊取り線香をたいてやった。生ゴミの匂いがちょっとは消えた気がする。

入院中に日記書き始めても、まいんち別に面白いこともねーからうんざりしてて、やっと退院して面白いことが書けるとか期待して損した。
こんなん、入院中より気が滅入る。あーあ。

明日から学校だ。部活はまだちゃんとはできねーのが面白くねーけど、ボールにも触っちゃいけねーってのよりはよっぽどマシだ。
早く寝よ。朝練だってしてやるぜ、おばちゃん先生。


 


 

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